真冬の温もり
寒い季節がやって来た。
じっとして居ると全身凍り付きそうになってしまう程。
その所為か、最近の私達は寄り添って過ごす時間が増えた気がする。
三成様の御時間がある時は、ただこうして何をするでもなく傍らに座って過ごす。
「日毎に寒くなって行きますね」
「そうだな。もう朝は布団から出るのが辛い」
「確かに朝の冷え込みは格別ですね」
白一色になった庭を眺めながらこうして他愛の無い話をしていると、何故か少し寒さが和らぐ気がする。
三成様の御側に居て、その御声を聞いて居ると、心の中から温まって行く感じがして。
「の国は山の方だから、もっと寒かったのだろう」
「そうですね…特に侍女達は大変そうでした。朝の台所などは、外と同じ寒さですから」
「…は優しいな。侍女達の事も気に掛けて」
三成様はそいう言って柔らかく微笑んだ。
「買被りです。私はそんなに立派な人間ではありませんよ」
「いや、俺にとっては…その、天下一の…良い妻だと思う」
「三成様…」
私はきっと、三成様が思って居るような人とは違う筈。
本当は我儘なところもあるし、まだまだ未熟な人間だと自覚して居る。
それでも、こうして褒めて頂けるのはとても嬉しくて。
三成様の優しい御声で言われる言葉は、じんわりと胸に染みて行く。
「…私こそ、天下一の幸せ者です」
「そ、そうか?」
「はい。三成様の御側で過ごす一時は、至福の時間ですから」
みるみるうちに、三成様の頬は赤く染まる。そして、微かに頷いてくれる。
言葉はなくても同じ気持ちなのだと解る、こういう一瞬が好き。
「何時までも、こうして御側に置いて下さいね」
「…ああ」
このままずっと、こんな関係を続けて行きたい。
時には言葉で伝えて、それが難しい時には表情や動作で愛情を伝えて。
何時でも互いの想いを感じ合える、素敵な夫婦で居たい。
「、寒くないか?」
「平気です」
「指先が赤くなっているが…」
「もう少し、こうして居たいのです」
お願いします、と手を合わせる。
まだこうして居たい。
外の寒さの分だけ、より強く感じる三成様の温もりを感じて居たい。
「仕方が無いな…」
小さく笑う声がして、何かがふわりと被せられた。
「三成様…これでは、三成様が寒いでしょう」
それは三成様の上着。
体温が移っていてとても温かいけれど、三成様はそれだけ寒い思いをしてしまう。
「俺は大丈夫だ」
「でも、私の我儘でお風邪でも召されたら…」
「…なら、一緒に入るか」
言うなり縮まる距離、ぴったりと密着する身体。
「み、三成様…?」
「これなら、お互いに温かいだろう」
見上げた三成様の頬は、先程よりも真っ赤になって居た。
私も何だか恥ずかしくなって、一枚の布の中で共有する体温にどきどきしてしまうけれど、でもそれよりも。
「…はい。とても、温かいです…」
こうやって愛情を伝えてくれる事が嬉しくて。
嬉しさが照れ臭さに勝ったから、そのままこつん、と三成様の肩に頭を預けて寄り添った。
「………」
「…………」
言葉の無い儘過ぎて行く時間。
けれどきっと今の私達は、世界中のどの夫婦より解り合って居ると思う。
そしてきっと、世界中のどんな夫婦よりも幸せを感じて居る。
どんな時も温かい愛情を下さる三成様、私の一番大切な御方。
了
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