赦して欲しい


ねえ君は怒るかな?

さん…、ごめんね…」

君を抱き締めてあげる事も出来無くなって、日毎窶れて行く僕を怒るかな。

「秀秋様…早く、元気になって下さい」

そう願ってくれる心に応えられず、君を残して逝く僕を怒るかな。

「ごめん。ごめんね…」

ただ同じ言葉を繰り返して、そっと手を握った。
まだそれくらいの力はあるから。
出来るなら最期の瞬間までこうして居たい。

「謝らないで、下さい…」

必死に涙を堪える姿は凄く辛い。
君が悲しむのを見ると胸が痛んで仕方無いのに、僕は駄目な男だね。
もっとずっと悲しませてしまうと解って居て、決して治らない病にかかってしまうなんて。

だけど、これだけは解って居て欲しい。
僕は罪の重さに負けて、裏切りの代償に命を落とす事になるけれど。
君が側に居てくれた日々は、本当に幸せだったんだ。
君の温かい心は何時だって僕を包んでくれて、救ってくれてたんだよ。
この先も君と生きて行きたいと願う気持ちだって、勿論強くある。
でも、これが報いだから。
因から果は生まれる。平和の為なんて言っても、大勢の為に少数の命を奪うのは、決して正義じゃない。
だから僕は報いを受けて滅びるんだ。
誰の所為でも無く、ただ僕自身の過ちを正す為に生まれ変わるんだよ。
戦で沢山の命を奪って、最愛の君まで悲しませて、来世を得られるのかは解らないけれど…
きっと生まれ変わって君を探すから、どうか暫く待って居て。

「…さんの掌は、温かくて気持ち良いね」
「そんな事は…」

謝る変わりに探した言葉は、また君を辛くさせてしまう。
多分僕の手が冷えてるんだろう。動けなくなってから、どんどん体温が下がって居るようだから。

「僕はさんの手の温もりが大好きだよ。さんの優しい心が伝わるみたいで、凄く、安心する」

繋いだ掌を頬に寄せると、胸の痛みが取れる気がするんだ。
それは弱い僕が君を悲しませてる現実から逃げてるだけの行為かも知れない。
でも、本当に幸せを感じて、これ以上無いくらい気持ちが安らぐから。

「僕に最期の時が訪れるまで…ずっと、こうして居てね…」

目を閉じて言うと、微かに君の指先が震えた。
ごめん、また泣かせちゃったね。
ねえ、こんな駄目な男だから、嫌いになっても良いんだよ。
それで新たな幸せを見付けてくれて構わないよ。
僕が居なくなる事なんかで、悲しまないで欲しいから。
そうは思うけど、でも。

「私、は…どんな時も、ずっと、秀秋様の御側に居ます…」

鼻声で伝えてくれる言葉に心の底から喜びを感じてしまう僕はやっぱり駄目な男だね。
自分は君を置いて逝こうとしてるのに、酷い事をして居るのに、君の愛はやっぱり欲しくて。

さん…ごめん、ね…」

もう一度だけ呟いて、温もりの中微睡に落ちて行く。
最近凄く眠いんだ。最期の時は今日か明日か、何時来てもおかしくない。
落ちて行く意識の向こうでは、君が堪えて居た嗚咽を漏らすのが微かに聞こえる。
眠るだけでこんなにも胸が締め付けられるのに、終わりの日にはどれだけ痛むんだろう。
僕も、君も。
最期に手を繋いで居るなんて、本当はただ辛いだけの事なのかも知れない。
特に君は、僕の手から完全に温度が消えるのを感じてしまうんだ。
逆の立場で考えたら耐えられそうに無い、気が狂いそうな程に辛い事なのに。
それを君に望む僕は、駄目な上に悪い男だね。
でも、君が、好きで仕方無くて。
言いたい事は沢山あるのに、どれも最近上手く言葉に出来ない。
口が上手く回らないのと、ああ思考さえも段々あいまいにくずれるようになってしまったから

僕のいしきが本当になくなるまでの間は、あとどれくらいだろう
その間に君になんどごめんねと思うだろう
そして、そのごめんねをどれだけちゃんとつたえられるだろう
何もかえせないまましんでしまう僕を、どうかゆるしてほしいなんて

それもわがままかもしれないけどでもぼくはきみがだいすきで
きみをなかせるだけとわかっていてさいごまでてばなせないよわむしでごめんね
ほんとうにほんとうにごめんねきみといきていけなくてごめんねでもどうか
こんなぼくをゆるしてほしい



ああ、きみのてはあったかくて、












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