届かない。


そう、か。
そうか、そうかよ。
結局、そうなんだな。
俺は、体良く利用されてただけなんだ。

「ありがとうございました」

笑顔、ああ、そんな笑顔、見たく無かった、俺の好きな笑顔はそんなのじゃ、

「さようなら」


な ん で だ よ ?





いつまでも鳴り響く、いつまでも鳴り止まない、最後のその声。

『さようなら』

俺の頭の中を巡り巡って、そろそろ脳髄がいかれちまいそうだ。

「…ふざけんなよ」

命張っても良いと思ったのに。
お前の為なら何でも出来ると思ってたのに。

「お前なんか、こっちから願い下げだ」

この世に美人なんか幾らでも居る、あんな奴は忘れてやろう。
俺を利用してただけの、冷淡卑劣な女狐の事なんか。
俺を裏切った、踏み躙ったお前なんか、大嫌いだよ。

酒を煽って、綺麗な遊女に囲まれて。
俺は結構もてるんだぜ?
お前一人居なくなったって、何も変わりゃしねぇ。
毎晩楽しく飲んで騒いで憂さ晴らし、最っ高に楽しいや。
執務に二日酔いを引き摺るのは少々厄介だが、これもまた悪く無ぇしな。
ガンガン頭痛がするくらいで丁度良いんだ、お前の鬱陶しい声が響かなくて助かるぜ。

「よう兼続、今夜俺ん家に飲みに来ねぇか?」
「は、はい…」
「良かったら宇佐美も来いよ、良い肴出すぜぇ?」
「…ああ」

気に入りの遊郭が何処も空いて無い日には、野郎共と飲み明かせば良い。
そうさ、俺には決まった女なんて要らねぇ。
楽しく飲める場所さえありゃあ良い。
女なんてただ笑顔で座って酌さえしてれば良いんだ、下手に頭の回る才女なんか御免だな。
俺が馬鹿だからよ、脳味噌空っぽな女で丁度なんだよ。
金払って騒いで、それで終わる女でぴったりだ。



「ほらほら、兼続もっと飲め!」
「むぐぐ…は、はいっ」
「宇佐美も手ぇ止まってんぞ?」
「………」

さあ騒ごう、朝まで陽気に飲み明かそう。
浴びるように飲まねぇと、冷静になんてなったら負け。
ほら、少しでも手を休めればまた。

『さようなら』

もう聞きたくない聞きたくない、そんな言葉聞きたくない。

「…うるせぇよ、クソ女」

俺の心に踏み込んでくるなよ、お前なんか、もう終わったんだ。

「慶次殿…、」
「なに、俺は平気さ」

涙を抑えて歪んだ笑いを零す、でもその度に、愛しさばかりが募る。
忘れたいのに忘れられなくて、畜生苛々してばっかりだ。
こんな傷をよくも負わせてくれたな。

「あんな女狐の事なんか、もうどうでも良い」

純な顔して汚い奴だ。
苦しいのは俺だけなんて割に合わないから、笑ってやるよ。
お前も腹の中では、馬鹿みたいな俺を嘲笑ってたんだろ?

「…慶次、良い加減にしろ」

お前なんか、大嫌い、だ。

「何だよ宇佐美、怖ぇ顔して。あ、元々そんな顔だっけか?」

面白くも無いのにやけに高笑いしてみせる。
だって気付きたくない、聞きたくない事を言われる気がしてならないんだ。

「お前…姫が涙を飲んで身を引いたと解らないのか?」
「なに、言ってんだよ。ふざけた事言うのも大概にしろよ」
「慶次、本当は解って居るな?」
「う…うるせぇよ!何がだ?何が、何がお前にはそんなに解るって?お前も俺を馬鹿にして楽しんでんのか?あの女狐みたいに!!」

なあ、やめてくれよ、俺はこれ以上何も聞きたくない、もう頭の中は既にいっぱいなんだ、やめてくれ。
そういうのは、本当にもう、無理、だからやめてくれよ聞きたくないから知りたくないから知らない振りをしてたんだから

「お前がこんなに駄目な男では、姫も想いを堪えた意味が無いだろう。せめてもの誠意くらい見せてやれないのか」


ああ、あれは、
いつもと、違う微笑。

『ありがとうございました』

俺を、見下してるんだと、思った、無理に思い込んだ、

『さようなら』

悲しみで歪んだ、切ない笑顔。


「っはは、何、言ってんだよ宇佐美……」
「…慶次」

だって今更俺に何が出来る?
俺の恋は、叶いっこないんだ。
どんなに想ったって、届きやしない事なんだよ。
だから、だから。

「あいつはクソ女、それで良いんだ」

そうだろ?それで良い、そうでなきゃ駄目だ。

「さあ、飲めよ!そんな詰まんねぇ話されたらしらけちまったぜ、もっと飲んで楽しくやんなきゃな!」
「慶次殿……」

憐れむ視線はやめてくれよ、もっともっと惨めになっちまうからやめてくれよ。
あいつは悪女、だから。
俺を想ってるなんて、そんなの無いから。


――俺はを愛してる。絶対に幸せにするから、迷わずついて来い


そんな事を言いたかったなんて、今更、思っても無駄だろ?
お前の姿は消えて行って、俺がどんなに必要としたって戻って来ねぇんだから。
離れるばかりの距離、二度と交わらない関係でしか無い、それが俺達だったんだ。

「ほらほら、馬鹿な男と腐った女に乾杯だ!」

だから、だから今はただ、鳴り響いてるお前の声を止めて、楽になりたい。



















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