懐郷



懐かしい故郷の香り
それは幾歳経ても忘れられぬ優しさに満ちた記憶
穏やかな水辺に揺れる草花、晴れた日には柔らかな陽光が包み込み
雨の日には煌く露が鮮やかに葉先花弁を彩る
湖面は眩く輝き、時折波紋を描き
その中に生きる魚は伸びやかに泳いでは豊かな自然を謳歌する
嗚呼、全ては清らかなる水の恵み
命の源、如何なる時も生命の糧となる水神の恩恵



――御帰りなさい。
そんな声が聞こえた気がした。

気が付けば目の前に広がるは懐かしい故郷。
私が幼い頃より眺めて育った、思い出の湖。
今日は良く晴れて居る。穏やかな湖面には漣一つ無い。
まるで今の私の心のよう…全ての苦しみを忘れた、静かなる心によく似ている。
ただ静かに落ち着いた心は気持ちが良い。
何もかも忘れて、このままもう一度意識を閉ざそう…

「定満様…」

不意に耳に届いた、消え入りそうな儚い呼び掛け。
その声が胸に、ざわ、と波紋を立てる。
何だろう…、何だっただろう。

「定満、様ッ……」

心に響くこの悲し気な声は。
聞いて居るだけで私まで悲しくなるような、その切ない声音は。
同時に湧き上がるこの愛しさは。

「…宇佐美は本当に姫が好きだったんだね」

この、声は殿?
姫?
好きだった?

ああ、

そうだ、私は…


敬愛した主君の為、身を投じて。

深愛した貴女の前で、死んだのだ。


「これも一緒に流してあげよう」


本当に馬鹿な男だ。


「何時までも姫と一緒に居られるように…」


何時までも共に。そう誓ったではないか。


「ほら宇佐美、お魚が沢山居るよー」

何処までも穏やかな殿の声。
その向こう、嗚咽を堪える姫が零す吐息。

姫、どうか泣かないで下さい。
約束を破った卑怯な男の為に涙を流すなど勿体無い事です。
全ての苦しみを忘れて一人楽になろうとしていた私は最低です。

(さようならは、言いません…)

姫の想いが心へ直接流れ込んで来る。
微笑さえ浮かべて私を見送る殿の、その本心の苦しみも。
私は本当に馬鹿な男だ。
何故死んだのか。
殿を守る事は本望なれど、その事でどれだけの人を苦しめてしまった事だろう。
大切な仲間…友と言えた数少ない人々の涙も見える。
徐々にはっきりとしだした意識を廻らせれば、沢山の人が悲嘆に暮れて居るのだとよく解る。
こんな私の為に皆が辛い思いをしているなんて。

もう少し強ければ良かった。
もう少し賢ければ良かった。
何か、何かもう少しだけ私に力があったなら。
こんな形にはならずに済んだのだろう。
強ければ佐助などは倒せたか、若しくは矢に撃たれた程度で死にはしなかった。
そして賢ければ、最初から何時何処に潜入されるかと云う事も読めた筈。
今更悔やんでも全てが遅過ぎる。
けれど、もし、願いが叶うのならば。

「定満様……」

ぽたり、姫の涙が湖に落ちて、その清らかな雫は水神の涙と交わる。
嗚呼豊かなる水の神よ、どうかこの身を貴方の元へと還して下さい。
そして今一度、姫に想いを伝える機会を下さい。
雨粒の一雫としてでも良い、直接触れて伝えたいのです…






定満様の水葬が終わってから一週間…それはあっという間の時だった。
明日にはもう御柳領へ戻らなければならない。
本当なら、もっと早くにそうするべきだったのだ。
体調を崩した私を気遣って、謙信様は逗留を許して下さったけれど…
先日小次郎に言われて気が付いた。
私が居れば居るだけ、謙信様を御辛くさせてしまうのだと。
定満様を失って悲しいのは謙信様も同じ。
謙信様の御命を庇って亡くなられた定満様の事で私がこんなに嘆いて居ては、益々悲しくさせてしまう。

「明日…。もう、明日には帰らなければならないなんて…」

私には自国の事もある。
定満様が亡くなられても、謙信様は同盟を破棄する気は無いと仰って下さった。
これから守るべきもの…それがある以上、いずれは絶対に帰らなければならない所だ。
解って居ても、この地を離れる事は恐怖に近い感覚を呼び震えが止まらない。

「離れたくない…」

定満様の愛したこの地。
定満様の生きた、共に幸せに過ごした、この越後を離れたら…もう本当に二度と会えなくなってしまう気がして。
此処に居れば側に居られる気がしていた。
まだ戦からお戻りでないだけだと、そんな風に思い込めた。
この土地に染み付いた記憶が私を包んでくれるような、そんな幻想を見ていたけれど。

「…。まだ起きてたのか?」
「小次郎…はい、眠れなくて」
「気持ちは解るが、明日は早くに発つんだ。もう寝ろ」
「はい…そうですね…」

返事はしたものの、座り込んだ縁側から立ち上がる事は出来無かった。
小次郎もそれ以上無理強いする気は無いようで、困った顔で小さく溜息を吐く。

「…じゃあ、俺は先に寝るからな。おやすみ」
「はい……」

解っている。
ずっとこうして居ても、定満様には二度と会えない。
私が思い出にしがみついて泣けば泣くだけ、皆が苦しい想いをするのだともよく解って居る。
きっと定満様もそうだ。
私が何時までも泣いて居ては安らかに眠れないだろう。
解って居るのに…思考と感情がばらばらになってしまったかのよう。
今すぐ立ち上がって床に入って休んで、明日には長い帰路に就いて。
それが今私のすべき事だと頭ではしっかり解って居るのに、心はそれらの行動を全て拒否する。
ただただ重く沈んで、心の重みが身体にも伝染って、このまま縁側に溶け込んでしまいそうだ。
いっそそうなれば良い、とも思う。
私の身体もこの地に還り、永久に定満様の御側で眠る事になれば良い。
けれどそれが到底実行出来ない事も、やはり解って居る訳で。

「定満様…」

暗い夜空を見上げれば、この心を映したかのような曇天。
この縁側から見える池の水も、空に倣い薄黒く染まって見える。

「水神様も…悲しんでおられるのでしょうか」

信仰心の篤い定満様の死は、神をも嘆かせているのかもしれない。
だから今夜はこんなに風が冷たくて、今にも雨が降りそうな…

「雨…、遂に降り出したのですね…」

ぽつり、音を立てて最初の一粒が庭木の葉を揺らす。
そうして瞬く間にざあざあと本降りになり、静かだった池の水面を波立てて行く。

「私も、このまま…」

このまま雨水と共に池に還れば。水神様が、定満様の元へと導いて下さるのではないだろうか。
ふらりと立ち上がり、誘われるように暗い中庭へ降りる。
覗き込んだ水の中はただ黒く、何も見えない。

「定満様…何処に、何処に居られるのですか…」

どうして此処にも御姿は見えないのだろう。
どうしてもう会えないのだろう。
どうして、どうして。
もう解らない、涙だけが止め処無く溢れて行くけれど、それも雨と流れて涙なのか雨なのか解らない。
そんな事はどうでも良い、ただ、ただ会いたい人の姿を探しても探しても見付けられなくて。

「それが幻影でも良いから、もう一度お会いしたい、だけなのです…」

強い雨に打たれた身体は冷えている筈なのに、何も感じない。
水の中に手を差し伸べる。やはり何も感じない。
今このまま私も死ねば。何も感じないまま、向こう側へ行ける気がした。
暗い水に身体を委ねようとした、その時。

――姫、

愛しい声が聞こえた気がして。

「定満、様……?」

頬をそっと撫でられた気がした。
何の感覚も無かった身体に、唯一、温もりが伝わったような。
流れる涙を拭うように触れた指先。

「…おい、!何をやってるんだ!!」

呆然と立ち尽くす私の腕を、現実的な感覚が強く引いた。
それでも、頬の淡い感覚は消えない。

「小次郎…、今、定満様が……」
「後を追う気か!?馬鹿な事を考えずにこっちへ来い、ずぶ濡れじゃないか!」
「違う、違うのです小次郎、定満様が私に会いに来て下さったのです」
、辛いのは解るが…」

ああきっと頭がおかしくなったとでも思われた事だろう。
でも、確かに今定満様が私に触れて下さったのだ。
確実に目の前に居る小次郎、その手の感触と同じだけしっかりと触れた温もり。
夢でも幻でもない、確かに、私の頬を撫でて下さった。

「とにかく早く身体を拭け、そのままじゃ風邪を…」
「あ、」

より強く腕を引かれた拍子に、ぐらりと身体が傾いた。
足に力が入らない。何だろう、身体中が重い。

!もう熱が出てるじゃないか…全く君は…!」

小次郎が何か怒りながら私を抱き上げた、其処までは覚えている。



「定満様、」

朦朧とする意識の中で呼んだ声は、果たして声になっていたのかどうか。
恐らく実際に口には出なかったのだろうと思う。
夢の中…そんな感じだ。
それでも、その呼び掛けには返事があった。

「…はい」

懐かしく愛しいその声。
見上げれば、困った様に微笑む定満様の御姿があった。

「定満様!」

お会いしたかったです、と云うそれだけの言葉も喉に支えて出て来ない。
その御名前を呼んだだけでもう胸がいっぱいになってしまって、ただ涙だけが溢れた。

姫…」

困った顔の儘、定満様の指先がそっと頬を撫でてくれる。
けれど拭われた筈の頬には新たな水の跡が出来る。
よく見てみれば、定満様は全身がぐっしょりと濡れて居た。

「これは…どうなさったのですか?雨に打たれたのですか?」
「いいえ。私はもう、人では無いから…水神様の元へ還ったのです」
「そんなこと…、」

聞きたく無かった。
本当に死んでしまったなんて、こうして夢であろうと出会えたのだから、思いたくなかった。
泣きじゃくる私の頭を撫でる掌はただ優しく、その水に冷たさなどはなく、温かくさえ思えた。

姫、貴女にはやるべき事がありましょう。御柳へと帰り、国を守る務めが残って居る」
「でも…、でも私は…」

離れたくない。
此処を離れたら、もうこんな風にだけでも会う事は出来無くなる。
定満様は故郷の湖に還られた。私が御柳に帰り、そのまま故郷の土と還るなら…それは死後の世界でも、あまりに遠く感じて。

「心配は要りません」

私の不安を読んだように、定満様はそっとあやすように抱き締めてくれる。

「私の身体は故郷へ還りました。けれど、心は第二の故郷へ還すと決めている」
「第二の、故郷…?」
「はい。この心が最も安らいだ場所、最も幸福を感じられた場所…貴女の側に還して下さいと、水神様に頼みました」
「私が…定満様の、故郷……」

一番幸せな記憶、それは確かに私の中に在る。
此処に蘇る遠い幸せの生き続ける限り、定満様は私の側に居て下さるのだ。
この地を離れ、遠く御柳の空の下暮らす事になっても。
豊かなる水の恵みは途切れる事無く続いて居る。

「だからどうか、そんなに悲しまないで下さい」

困った笑顔が近付いて、そっと唇が重なる。
その時流れた雫からは涙の味がした。

「私…、」

定満様の纏う水を涙の味にしてしまったのは、私だろうか。
清らかなる水を悲しみの色に染めてしまったのは私、なのだろうか。

「私、もっと…強く、なります…」

まだ自信は無いけれど、頑張るから。
その困った微笑が以前のような笑顔に戻ってくれるよう、頑張るから。

「だから…これからも、側に、居て下さい…」

私が笑顔を見せなければ定満様も笑えないだろう。
解ってはいるけれど、どうしても泣き顔になってしまう。
だって、さっきからずっと感じている。
何の音も無かったこの世界に、少しずつ降り頻る雨音が響き出したのを。

「姫、」

縋る私の手を解いて、困った微笑が深くなる。勿論、困った方に深くなる。
困らせたくは無い。悲しませたくも無い。
私は頑張らなくてはならない。
この手を離して一人で生きていかなければならない。
でも、本当に一人ではないのだ。
大丈夫、大丈夫。
私の側には、定満様が居てくれる。
私が幸せを思い出して笑って居られたなら、貴方を包む水も穏やかに在るのでしょう?

「………」

震える手を離すと、定満様は少しだけほっとしたような笑みを見せてくれた。

姫、私は何時でも貴女を見守って居ます。だからどうか寂しいと思わないで下さい」

雨音が強くなる。

「それでも貴女が辛い時には、雨となり会いに行くから。誰より愛しい貴女の元へ、その頬を濡らす涙を洗いに行く」

その中で、ありがとう、そう呟いた声は届いただろうか。

「必ず、会いに行きますから……」

軅て全ては雨音に掻き消された。





「ん……」

目を開けた先にあった世界は、太陽の眩く輝く場所。
雨はすっかり上がり、木々に残った雫がきらきらと光を映していた。

!」

すぐに小次郎の声が掛かる。

「良かった、心配したんだぞ…!」
「すみません…」

疲れ切った様子からして、殆ど眠らずに側に居てくれたのだろう。
ぼんやりとする頭で昨夜の記憶を辿れば、心配されるだけの事をした自覚が蘇る。

「雨に打たれて高熱を出して、ずっと眠った儘だったんだからな」
「そうだったのですか…」
「もう熱は下がったみたいだが、これじゃ今日の出立は無理だな。少し様子を見ないと…」
「大丈夫です。今日、此処を出ましょう」

身体を起こし、小次郎の目を見てはっきりとそう告げた。
今日行かなければならない。
これ以上此処に留まっても、皆を苦しめるだけ。
熱が出て居たと感じられない程に身体がすっかり軽いのは、定満様のお陰だろう。
本来在るべき場所に帰りなさいと、定満様が私に仰っているのだ。

「だが、急に動いては…」
「もう何ともありません。早く御柳に戻り、すべき事は沢山あります」
…?」

急に吹っ切れた様子の私を小次郎は訝しがって居たけれど、元々帰る予定だった事だ。
特に誰が反対するでもなく、帰り支度は整った。

御世話になった皆様にお礼を言って、見送られて。
其処に在った笑顔はどれもが悲し気なものだった。

姫、また、遊びにおいでね」
「はい…」

謙信様は最後まで涙を見せる事は無かった。
その心中はさぞ苦しいものであるに違いないと云うのに、穏やかな立居振る舞いを変える事は無く。

「同盟国なんだし、遠慮しないで何時でもおいで。きっと…宇佐美が寂しがるだろうから」

そう言う謙信様の瞳の奥には、確かに悲しみの色があった。けれどそれはほんの一瞬で、すぐに主君としての目に戻る。
龍、その名称の実に相応しい人だと思う。
内面にどれだけ猛る嵐を抱いていようとも、常に威厳に満ちたその佇まいはまさしく龍神。
水神様に仕えた定満様が心底尊敬した方、水と龍の切っても切れぬ関係だ。

「謙信様。定満様は、常に謙信様の御側に控えていらっしゃると思います。だから、きっと誰も寂しくないでしょう」

定満様の身体の還ったこの地。
きっと謙信様の何代先までも、見守って下さる事だろう。
定満様も皆に愛されて、何時までも穏やかに過ごされるに違いない。

「なんだか…、姫は昨日までより強い瞳をしてるね」
「はい。解ったのです。定満様の御功績…その築き上げられたものは、今を生きる者が守らねばならないのだと」

亡くなられたからといって、その全てが消えてしまう訳では無い。
共に過ごした時間が今の私を作った。そして今の私が未来へ歩き出す。
定満様の生きた証を私が繋いで行くのだ。
そして私の傍らには常にその深い愛があるのだから、きっと大丈夫。

「…そう。そうだね。私も、宇佐美のしてきた事を無駄にしない様に、頑張るよ」

私の言葉に謙信様は少し驚いてから、微笑んでそう言った。
悲しみはすぐには癒えない。その微笑はまだ翳りがあるけれど、謙信様もきっと大丈夫。
私達は何時でも守られて居るのだと、その事に気が付けたならそれだけで明日からは変わる筈。

「では、今迄御世話になりました」
「こちらこそ。道中気を付けて、元気でね」

最後に皆様に深く頭を下げ、後はもう振り向く事無く先へ進む。
小次郎はずっと不思議そうな顔をしていたけれど、あえて知らんぷりを通しておいた。
本当に頭がどうにかなったと思われるのも嫌だったし、何よりあの一時の事は秘密にしておきたかったのだ。
私と定満様だけの、秘密の逢瀬。
思い返せば胸が熱くなる。
定満様にはきっと他にも直接話したい方が沢山いらした事だろう。
謙信様や景勝様や…仲の良かった方々に伝えたい事があった筈。
それでも、私の所へ会いに来て下さったのだ。
だから私は大丈夫。私はしっかりして行かなければならない。

長い旅路の途中では、やっぱり泣いてしまう事もあった。
けれどそんな夜には必ず優しい雨が降って、私を慰めてくれた。
旅をするに当たって雨は邪魔になる、これまではそう思って居たけれど。
定満様の事を想って眺めてみれば、世界は全く違っていた。
大地は豊かに潤い、草花は皆恵みの水に喜び、雨粒を纏ってきらきらと輝いている。
何もかもが定満様のお陰と言っては水神様に怒られてしまいそうだけれど、私には全ての恵みは定満様の慈愛のように思えた。
そう思うくらい、頻繁に降る雨は心の支えとなっていた。




そうやって幾晩をも乗り越え、辿り着いた御柳の国。

「帰って…来たのですね」
「ああ、漸く到着だ。疲れてないか?」
「いいえ、平気です」

城門の前に立つと、ほっとする安らぎが沸き上がる。
幼い頃より慣れ親しんだ、肌に馴染む空気。
定満様の仰って居た事が良く解る。
私もいずれ死したなら、身体はこの生まれ育った地へと還したい。
けれど心の安らぎは別の場所に還したいと願う。

「御帰りなさいませ、姫様」
「よくぞ御無事でお戻りになられました」

皆が笑って出迎えてくれる、その中に愛しい人の姿は無い。
それでも私は大丈夫。
だってほら、空を仰げば分厚い雲の隙間から。

「おお、急な雨だ!姫様、早く御入り下さい」
「さ、姫様、雨に打たれる前に早くこちらへ」
「有難う、でも、良いのです。少しだけ…この慈雨に、当たっていたいのです」

降り出した雨粒を見上げ、そっと微笑む。
その一雫は頬に落ちて優しく流れ落ちて行った。
他の人が見ればまるで私が泣いているように見えるかもしれない。
けれどそうではなくて、これは涙を拭って貰ったのだ。

「…おかえりなさい、定満様」

泣きたい気持ちを押し籠めて、精一杯の笑顔を空へと向けた。
此処が貴方の心の還るべき場所。
私も何時か、貴方の元へと還る日が来るのでしょう。
その日までは…私は貴方の故郷として、穏やかな場所で居られるよう、笑顔で生きて行きます。
懐かしい故郷の香り、それは幾歳経ても忘れられぬ優しさに満ちた記憶。
貴方にとって私が、何時までもそうであれますように。


――ただいま。


雨垂の向こう。
優しく微笑むような、そんな声が聞こえた気がした。








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